2014年3月15日土曜日

講談社with1990年インタビューシンディ・ローパー№ 2



二十九歳のときだ。
音楽プロデューサーのデヴィッド・ウルフは
彼女の強烈な個性に惹かれ、売り出すために奔走した。
そして一九八三年十一月、シンディ・ローパーのデビューアルバム
「シーズ・ソー・アンユージュアル」が発売される。
日本語に訳すと”彼女、ふつうじゃないね”である。
このデビューが彼女の人生を一変させた。
第一弾シングル 「ガールズ・ジャスト・ワナ・ハブ・ファン」
(女の子だって楽しみたい)は大ヒットを飛ばし、全米ヒットチャート一位に。
アルバムは全世界で八百万枚をセールス。
八四年度のグラミー賞最優秀新人賞も獲得した。

「おかしなものね。石まで投げられた私の格好が
いまではオシャレだっていわれるのよ。
だからね、自分が人と変わっているからといって
それを恐がっちゃいけないと思うの。」
シンディはやわらかな笑みを浮かべる。
三年前発表した『トゥルー・カラーズ』で、彼女は歌っている。

”私にはあなたの良さがよく判る/だからこそあなたを愛しているのよ
自分本来の姿を表に出すことを恐がっていちゃだめ/本物の輝きってとてもきれいなのよ
まるで虹の様に”(訳・中川五郎)

私生活のほうでも、彼女とデヴィットはいつも一緒だった。
ふたりは恋に落ち、同じ家で暮らし、八四年には婚約もした。
常に行動をともにしていた彼だったが.......。

「別れたの。
去年は私、なにもかもうまくいかなくてサイテイだった。
出演した映画「バイブス 秘宝の謎」はひどい出来だったし
歌った主題歌はあまり売れなかった。
新しいアルバムづくりも思い通りに進まなかったし。
私、ひらめきをなくした、ただのみにくいアヒルの子みたいだったの。
そんな年もあるのね.....」

* どうして、彼と別れることになったの?

「わからない。
突然すべてがちぐはぐになってバラバラになってしまったのよ。
『いったい、どうなってるの!』って叫んじゃったぐらいね。
彼とは、七年間つき合ったわ。
私たち、一緒にいまの成功を手にしたのよ。
私たちは一緒になるために生まれてきた。
協力し、支え合いながら生きるために。
だけど、なぜか毎日ケンカするようになって.....」

* 彼との結婚を考えたことは?

「もちろんあるわよ。
だから婚約までしたんだから。
でも四年も婚約しているなんてヘンよね。
彼に言ったの。
一九八八年の八月八日までに結婚しないのなら、もう止めようって。
......結婚できなかったのは、お互い忙しすぎたせいかな。
一緒に暮らしていたころ、仕事が終わって家に帰ると
彼はもう仕事の話をしたがらなかったの。
なのに私は仕事の話ばかりしていた。
私が悪いのよね。
二十四時間、仕事のことばかり話していて......」

五月に二年八か月ぶりに発売された最新アルバム
『ア・ナイト・トゥ・リメンバー』は、すべてラブソングが歌われている。
その中でシングルカットもされた
『マイ・ファースト・ナイト・ウィズアウト・ユー』
『あなたのいない初めての夜』は、彼女自身の作詞だ。
そこからはシンディの悲痛な叫びが聞こえる。
”馬鹿みたいにこんなところに座り込んで/いろんなことを思い出している。
二人でどんな風にしゃべりあっていたか/二人で一緒によく歌ったいくつもの歌
なんとかして過去を断ち切らなくっちゃ/でも思い出はあまりにも素晴らしすぎて
私は今にもおかしくなってしまいそう/あなたなしで過ごす初めての夜
あなたなしで過ごす最初の夜/いったいどうすればいいのかしら”(訳 中川五郎)




* 人生に男の人って、やっぱり必要?

「ええ。
でもね、男に頼ることで自分の幸せをつかもうというのは
とんでもないミステイクだと思う。
誰かの人生に乗ることが幸せなのか、自分自身でいることが幸せなのか。
私は、いつでも自分自身の道を歩んできた。
デヴィッドとの関係をスタートさせたのも私よ。
結果として別れてしまったけど
いまもいい友達。この関係のほうが私にはいいみたい」

* だけどそろそろ子供が欲しいと思わない?家族が欲しいなって。

「そうね。
子供は大好きよ。
でもいまは仕事があるし、デヴィッドと別れたばかりで
子供をつくる相手もいないし......
無理よね(笑)。
そのうち、この人の子供が欲しいという男の人が現れたら
ガンバルわ。」

* どんな男性が好みなのかしら?

「ユーモアのセンスがあってキュートで......
独身のほうがいいわね(笑)。心の大きな人ね。
私と一緒に肩を並べて歩くことを恐がらない人。
お互いの人生を分かち合える人」

* では逆に、魅力的な女性って、どんな人だと思いますか。

「誰でも、”it”があれば魅力的よ。
”it”ってね、自信と歓喜と情熱のある生き方のことよ。
プラス、やっぱりユーモアのセンスね。
あんまり深刻になりすぎずに軽やかに笑えるセンス。
それに、庶民的な感覚のある人なら
とっても魅力的だと思うわ。
私、典型的な美とか、昔から決まっているようなパターンは好きじゃないの。
私自身、完璧な美人じゃないから、パーフェクトにきれいな人を見ると
『わっ、完璧!』と驚くけど、それだけね。美人が魅力的だとはかぎらないでしょ」

いたずらっぽい顔で、にっこり笑ってみせた。
撮影とインタビューの時間は一時間半という予定だったのに
既に三時間を超えていた。
魅力的なページにするために、彼女は
洋服を三点着替えようと提案したのだ。
専属のスタイリストが用意した二十点以上の組み合わせのなかから自分で選び
さらにそのファッションに合うアクセサリーがホテルの部屋にあると思うと
わざわざスタイリストに取にいってもらう。
妥協はしない。
「去年の私が、仕事でどうして最低だったかというと
アルバムを作り直しながら私、気がついたのよ。
まわりの目をいつの間にか意識するようになっていた。
自分で楽しんでいなかった。私自身が楽しんでないのに
人を楽しませることなんてできないのよね」

シンディの笑顔は本当に楽しそうだった。

講談社 with 1990年インタビュー シンディ・ローパー



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